MC5 Japan

ロブ・タイナー遺族のためのチャリティー・コンサートは、ウェイン・クレイマーの発案により１９９２年２月２２日、デトロイト中心部を走るウッドワード・アベニューに面したステイト・シアターで行われた。ウッドワード・アベニューは、かつてドラッグ・レースのメッカとしてスピード狂の若者で賑わった、道幅ゆうに数百メートルに及ぶ長大な道路である。しかしその後、度重なる暴動や自動車産業の衰退と共に付近は荒廃し、この時にはすでにゴースト・タウン化して久しかった。

ウェインはむろんMC５のナンバーを演奏するつもりでいた。そして、ファイブの歌をよく知っていて、なんとかプレイできそうなミュージシャンをさまざまに検討するうちにふと思い付く。「待てよ、他にいるじゃないか、MC５のレパートリーを一番よく知っていて、最高にうまく演奏できる人間が。」

Poster: Photo & Art by Gary Grimshaw

かくして２０年の歳月を経てMC４が再び集合したのである。マクニール／マッケイン共著のパンク・ロック・ヒストリー、「プリーズ・キル・ミー」にはウェインの談話として、この日ステージ裏で４人に何が起こっていたのかが詳細に記されている。当日フレッドはワインのボトル２本を手に現われた。彼の精神はもはや正常な状態にはなく、ステージに出ていく時間が来ても動こうとしない。しかしウェインはひたすら待つ。(「フレッドがステージに出ていく時、それが俺たちが出ていく時だった。」）マイク・デイビスがケン・シマモトとのインタビューで語ったこと全くそのままに。（「山火事に遇って炎がケツから１０センチのとこまで迫ってきても、フレッドが逃げない限り誰も逃げちゃいけないのさ、誰も逃げないんだ。」）最終的にステージに上がったフレッドはギターを抱えてはいたが、ほとんど弾くことができなかったという。彼がかつていかに才能に溢れた優れたギタリストであったか、その姿を目の当たりにしたファンの気持ちを思うと本当に胸が痛む。多くのバンドが参加し出演時間が限られていた中で、彼らはランブリング・ローズ、ブラック・トゥ・コム、そして最後にキック・アウト・ザ・ジャムズを演奏して終わる。客は皆泣いていた。その中にはかつてMC５と共にシンクレアのコミューンで苦難を分かち合ったブラザーズ・エンド・シスターズが数多く含まれていた。

上のポスターはこのコンサートのためにゲイリー・グリムショウが製作したものである。エレガントな曲線、大胆な色と構図 -- 親友の死を悼むグリムショウの美の世界の真骨頂である。当日会場で販売された４００枚は即日完売したというが、ある時これがインターネットのオークションに出ているのを見つけたのでビッドに参加した。まだ競売が終わらないある日、グリムショウの友人で代理人という人からメイルが来た。あなたが現在最高値をつけているのは初刷の４００枚ではなく、第２刷のはずであるから留意した方がよろしい、という内容だった。何も知らずに初刷と勘違いして高い値段をつけないようにという作者の良心的な配慮だったのだ。折り返し丁寧な返信を送った。「ご連絡ありがとうございます。あなた方の良心に敬意を表します。ですが私は稀少性のためでなく、この作品の美しいデザインが大変気に入ったのです。このポスターを部屋に貼る日を楽しみにしています。」