美しい光景だった。色とりどりの照明がラメやスパンコールや金色の吹奏楽器に反射してまぶしく輝くステージの上を、全身純白の衣服に身を包んだウェイン・クレイマーが歓喜の表情を浮かべながら何度も何度も往復する。

2005年2月25日、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールでサン・ラー・アーケストラとDKT/MC5がほぼ40年ぶりの共演を果たした。思い思いに楽器を奏でたり歌ったり叫んだりしているステージ上のミュージシャンは総勢20名。スター・シップは今にも空中分解しそうなのに、航路はしっかりと土星目指して進んでいった。

聴きに行くことを半ば諦めていた今回のロンドン公演だったが、いてもたってもいられなくなって、自分はやっぱり慌ただしく荷物をまとめて出かけてしまったのである。

公演前日の夕方、ヒースロー空港に着いた。2月のロンドンは寒いばかりでなく、雨やミゾレ混じりの最悪の天候である。翌日は開演時刻午後7時半の30分くらい前に会場に到着。正面入り口を入ればたちまち英国パブの雰囲気で、1階ロビーのバー・カウンターを中心に大勢の人がビールを飲みながらやかましく歓談していた。テーブルが置いてあり食事もできる。人ごみの中、何か販売していないかと捜したが何もなかった。はるばる来たのだからプログラムくらい欲しかったのにがっかり。日本では当たり前のチラシ配布さえなく、ビジネス・チャンスにおおらかと言うか、サービス精神がないと言うか、あまり商業主義的なのは嫌だが、もう少し何か企画して販売してもいいのにと思った。というわけで、記念の品はウェインのマネージャー、マーガレットが用意してくれたゲスト・チケットとバックステージ・パスだけ。全席予約の会場で前方のよい席がもらえたのがありがたかった。総数2900席のホールは7割くらいの入りだった。
コンサートは3部構成で、まずアーケストラが登場して彼らのセットを1時間余り演奏、インターバルを挟んで第2部がDKT/MC5。MC5時代のレパートリーから成るセットを終えた後にアーケストラとゲストのデビッド・トーマスが加わって全員でスター・シップを共演するという進行だった。

最初にアーケストラが登場。実物は初めて見る彼らの衣装がユーモラスで美しく、楽しいことが起こりそうで見ただけでわくわくしてきた。この時点では、2つのグループが終止同じステージで演奏するのかと思い込んでいた自分は、やがてウェイン達が出てくるのかとぼーっと待っていたらやおら演奏が始まったのでびっくりした。

1曲目はフランク・ザッパ風の聴き覚えのある曲だったのだが、曲名がわからない。サン・ラーの作品はCDを1枚持っているだけなので、この日のレパートリーで知っていた曲は1曲もなく、セット・リストも報告できずサン・ラー・ファンには申し訳ない。現在アーケストラを率いるマーシャル・アレンが書いたという アップ・テンポのクールなナンバー、"Cosmic Hop" という曲と、(たぶん)"Happy Crappy" という曲はわかった。>>>この後、雑誌MOJO の5月号にこの公演の記事が掲載され、アーケストラのセット・リストも載っていたので報告する。

が、自分のようなサン・ラー初心者でも十分楽しめるすばらしいパフォーマンスだった。予測していたよりフリー度が低かったこともあり、想像していたような難解な音楽ではなくて自然に入り込め、すばらしいジャズの世界を堪能させてもらった。(上の写真左端に立っている男性がマーシャル・アレン。)

シアター風の演出があったり、"Sun Ra is a mystery!"と歌いながらメンバーがステージを降りて客席の通路を行進したり、オーディエンスを誘って合唱させたり、盛りだくさんの演出で本当に楽しかった。スタンダードなジャズも数曲演奏したのだが、いずれも洗練されたキレのいいリズムがクールな絶品だった。さらにフェスティバル・ホールの音響効果がすばらしく、音の一粒一粒が、まさに星の如くに輝いている感じだった。

ピンボケだけれど上の写真が主にボーカルとMCを担当していた男性。この写真だとわかりにくいが、この帽子はヒトデ型でした。

こんなに神秘的で美しく、しかもユーモラスで愉しい音楽をライブで聴く機会を得たことが嬉しい。かつてデニス・トンプソンが、インタビューでフリー・ジャズの巨星ジョン・コルトレーンをこう評したことがある。「音楽の世界でトレーンのような人間は美術の分野におけるレンブラントみたいなもんだ。音楽の全景をまず示してくれたのさ。」この日サン・ラー・アーケストラを聴いて、彼の言葉の意味が多少理解できたような気がする。

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