キック・アウト・ザ・ジャムズ (Electra 60894-2)
ロブ・タイナーによるライナー・ノーツ

Kick Out The Jams (Electra 60894-2)
CD Liner Notes by Rob Tyner



ブラザーズ・エンド・シスターズ、

今、このライナー・ノーツに目を走らせているということは、遠い昔に消え去ったある時代に幾ばくかの興味を抱いてのことだと思う。君達がこれから聴こうとしているこの音楽を生み出した文化は、未来永劫、2度とこの世に現われ出ることはない。歴史の一瞬のきらめきが、今君の手の中で輝いているこのディスクに、渦巻く金色の暗号となって永遠に封じ込められたのだ。このディスクは時空に開いた窓、そして君は今、伝説のグランディ・ボールルームの封印を解こうとしている。チケットを切るのはアンクル・ラス。さあ、万華鏡の回廊を抜けて、モーター・シティー・ロックンロールの魔法の夜に足を踏み入れてくれ。

このCDのプリズムの輝きをじっと見つめてごらん。それは水晶の玉となり、君の五感を神秘の調べで包み込む。時間を一歩逆行してごらん。大型アメ車がデトロイトの街路を我が物顔に回遊し、エア・タイムをめぐってモータウンとサイケデリック・ミュージックがしのぎを削っている。全てが全てだった時代。ノーブラの女の子とフリー・セックスの時代。グランディのアリーナに出演するために、世界中のバンドがデトロイトに集結した時代。目をつむってごらん。聞こえてくるのは大地を揺るがすサウンド・ウェイブ、見えてくるのはライト・ショウの光線が放つ色の洪水。匂ってこないか?インドの香、ストロベリー・シガレットの煙。

この音楽は人間で言うなら成人、それくらい昔の音なんだ。この音楽のどこがそんなに重要で、今さらエレクトラから再リリースされるんだろう?

なぜならこのアルバムは小宇宙だからだ。これらの歌を生み出し育んだ一つの時代が、この1枚のディスクに凝縮されているからなんだ。ヒット・チャートを賑わす商品化された音楽より、何か意味のあるものを創造しようと僕らは理想に燃えていた。このディスクには、アメリカにおける動乱の時代の情景と暴虐が込められている。この音楽は、60年代の情緒が抱いていた焦燥と、未来に与えた衝撃を表現している。実現するはずのなかった一つの世界、それを構築せんがために僕らが闘った闘争、70年代、アメリカ国民が熱に浮かされたようにディスコ・ブームに堕ちて行く中で滅んでいった、悲しいまでに美しい夢、それをこの音楽は映し出しているんだ。

パンクの前に僕らはパンクだった。ニュー・ウェーブ前に僕らはニュー・ウェーブだった。メタルの前に僕らはメタルだった。ハマーより前に僕らはもう「M.C.」だったのさ。見方次第で、僕らは時代の電気メカ的クライマックス、でなければカウンター・カルチャーから生まれ出た乱暴者の鬼ッ子。僕らは殺戮を行う者、僕らは正しく、一晩中でもプレイし続けるエネルギッシュでパワフルな男達だった。人は僕らのことをこんな風に結論づけた。

・とりたてて才能はない
・インチキ革命家
・ジョン・シンクレアの大事な政治的道具
・ヤクでラリってる13歳の子供と同じ
・イギリスの偉大な先輩バンドに敬意を払わない、そして
・絶望的に悪い星の下に生まれた

僕らのことを、親の権威をちゃかす勇敢な反逆者と評した人達もいたし、病んでいる社会の一つの徴候と呼ばれたりもした。警察に弾圧され、メディアと革命に翻弄された。だが、僕らは銃弾を跳ね返し、かつて存在したどのバンドが経験したより過酷で危険な攻撃を、断固とした決意をもって闘い抜き生き抜いたんだ。

僕といっしょに1968年ハロウィーンの夜に戻ってくれ。革命のゼンタ暦元年に。プロデューサーのジャック・ホルツマンとエンジニアのブルース・ボトニックはレコーディング・コンソールの前でスタンバイしている。ジョン・シンクレアとダニー・フィールズは音楽で攻撃を加える準備を整えているところだ。ゼンタの預言者、ブラザー・ J.C. クロフォードはオープニングのMCとアジテーションを考えている。ウェイン・クレイマーとフレッド・スミスは、ラメとスパンコールで燦然と輝くコスチュームに身を包み、破壊的パワーを持つ彼らの道具、ギターのチューニングをしている。ドラマーのデニス・トンプソンとベーシスト、マイク・デイビスは、もうすぐ始まる嵐のような肉体の運動に備えている。開演を待つオーディエンスのざわめきを聞きながら、僕は身体の中に期待と興奮が高まっていくのを感じている . . . その瞬間は刻一刻と近付いてくる。この時のために僕らはずっといっしょにやってきたんだ。MC5が猛り狂う音を解放し、雷鳴の爆裂的轟きをもって宇宙を微塵に粉砕する、この瞬間のために。

だから、ケーブルが蛇のように這うグランディのステージの上、僕の隣で踊ってくれないか。ミサイル攻撃を受けたみたいに、僕らの周囲は破壊され崩れ落ちていく。見てごらん、ライト・ショウの光が四方の壁や天井を回り、揺らめき、渦巻き、ミラー・ボールに反射してキラキラ輝く無数の光の破片となって落ちていくのを。みんなの興奮を感じてごらん、音の津波を浴びて文明の最後のひとかけらまで洗い流し、汗ばんだ原始の姿で一体になるのを。ほら、顔にペインティングをしたグランディ・ガールズが、轟音の中、ほの暗い光の下で燐光を発しながら漂っている。見てごらん、デトロイトのタフな男達とミニスカートのイカしたガールフレンドが、今夜がこの世の終わりみたいに、飛び跳ね身体をくねらすのを。

あの道を、僕らはいっしょに疾走した。熾烈で過酷なあの道程を。僕らは僕らの闘争を闘い、石と矢を浴びせられ、それでも数々のバンドが戦ってきた偉大な戦いで僕らなりの勝利を勝ち取ったんだ。

このアルバムを録音してから多くの事が変化した。永遠に変わってしまったものもある。でも、今君たちに語りかけることができるなら、僕らがかつて味わったあの連帯感をもって、こう言わせてくれ . . .

未来の人々よ

過ぎし日々の深遠なる淵から あなた方に呼びかけよう

夜の雷鳴を 永遠に!

1991年 ロブ・タイナー

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