久しぶりにウェイン・クレイマーの怒り爆発!という感じの今回のレポート。アメリカの大手ネット・プロバイダが全米レコード協会と結託し、著作権保護を目くらましにアーティストが創作したコンテンツのファイル共有に課金し、その利益をアーティストに還元せずもっぱら自分たちのフトコロに入れている・・・というアメリカでの現状に対する激しい抗議文である。コンテンツ制作側であるウェインの立場は、ネット・ユーザーには自分たちの創作を無料で提供したい、一方、その配信で儲けている企業はコンテンツ提供者に支払うべきである、というもの。ウェインが述べる著作権の原理を理解しよう。


クレイマー・レポート No. 31(2009年3月31日)

共有の日

音楽ビジネスの嘆かわしい現状をグチるボノ、ジョン・メレンキャンプその他全てのミュージシャンに: オーケイ、その話はもうたくさんだ!お前ら肝心なことを見逃してるぜ。打開策はまさしく俺たちの目の前にぶら下がってるんだ。

音楽業界がもはや便所同然なのはわかってる。レコード会社が搾取してるとかビジョンが欠けてるとか、そういう議論に水を差すつもりはないが、そんなのは聞き飽きた古い話で、目前の重大問題を認識し解決する邪魔になるだけだ。俺にとって大笑いなのは、そういうことを言ってる連中は頭が良くて業界事情に通じてるプロってことになってる点だ。奴らは「新パラダイム」なるものを捜して頭を切り落とされたニワトリみたいに大騒ぎしてる。なのに、どうしてこの解決策が見えないんだろう。

2009年3月24日、CNETのライター、グレッグ・サンドバルは、デジタル・メディア・ニュースでこう伝えた。「アメリカ最大手のインターネット・プロバイダの一つAT&T社は今週火曜日、同社がレコード産業と一致協力して、非合法の楽曲ファイル共有に対抗していくことを確認した。ナッシュビルで開催されたデジタル・ミュージック会議においてAT&Tの上級役員ジム・チッコーニは、全米レコード協会が権利を有する楽曲を不正使用しているとされる人々に向けて、ファイル削除を実施する著作権侵害通知の送信に踏み切ったと発表した・・・」あり得ねえ!ってのはこのことだ。世界的プロバイダの最高経営責任者ってのは、まったくとんでもない奴らだ。俺たちが創作する音楽の配信で何十億って儲けておきながら俺たちに対してはビタ一文支払わないくせに、今また「はぐらかす」って言葉に新しい意味を付け加えてくれたのさ。これは完全な犯罪だ。このチッコーニって男は大衆とエンターテイメント産業をまやかしのゲームでケムに巻こうとしてる。問題の本質から注意を逸らす前代未聞のごまかしだ。問題の本質は、そのコンテンツを提供している者は、その作業に対し全くカネを受け取っていないってことなんだ。

ネット上のすばらしい音楽及びプログラミングを創作したアーティスト、曲を書いた人間、パブリッシャーやプロデューサー、彼らはみんな破産寸前だ。この問題で使われてる「共有」って言葉は、「リブランディング(ブランド再構築)」に匹敵する、俺が今まで聞いたうちで最高に巧妙な単語の再定義ってヤツだ。

もし奴らが言うようにネット・ユーザーが「タダで手に入れる」ことを「共有」というなら、それが「共有」の新しい定義なら、俺はアーティスト仲間と一緒に2009年11月27日を正式に「共有の日」に制定しよう。世界中の誰でも---住んでいる場所や職業や趣味の如何に関わらず---店、レストラン、車の販売店などの商業施設から何でも好きな物を全く無料でもらってきていいんだ。みんな「共有」したい、ならそうすればいい。

ネット上では全ての創作物が無料であるべき。そう信じて大人になった世代が一つ現実に存在しているんだ。俺はその考え方で構わないと思っている。俺たちが苦労して創作した成果を全ての人々と分かち合いたい。ところがその中である特定の人間にカネが支払われる、しかもそれが実際に創作を行なった人間ではなく、それをデリバリーする人間だとなると、これは大きな問題だ。だが克服不可能な問題ではないと思ってる。なるほど、プロバイダも分け前に預かる権利はあるんだろう。だが現実には、奴らだけが分け前を独り占めにしているんだ。どの産業でも同じだが、労働したら対価が支払われる。さもないと最終的に生産という行為はストップしてしまう。労働は対価を得る権利を持っている。だがユーザーを不正コピーで訴えたところではじまらない。インターネット・ユーザーはすでに毎月のDSL/ケーブル/電話使用料を支払っているわけだから、コンテンツに支払う財源はすでにあるはずだ。

カネの流れを見てみればそれがプロバイダに行き着くってことがわかる。例えばこうだ。アメリカだけでも、DSLサービスに月38ドル(訳注:約3,400円)払ってる9,100万人の契約者がいる(あらかじめ言っとくが、ピュー・リサーチ・センターがソースの2005年6月の数字だ)。プロバイダがいかに巨額の収益を得ているかを示す簡単な例だ。9,100万人 X 38ドル/月 = 34億5,800万ドル(訳注: 3,112億2千万円)だ。これに12ヶ月を掛けてみろ。年間414億9千6百万ドル(訳注:3兆7,346億4千万円)だ。これがプロバイダのフトコロに入る。大した金額だ。414億9千6百万ドル --- しかもここには携帯電話への着メロダウンロードに対する別課金は入っていないんだ。

この料金にあといくら加えればコンテンツに支払ってもらえるんだ?2ドルか?5ドルか?加える気がないならタダで配信しろ。ネット使用者に何でも好きなものをダウンロードさせるんだ。どっちにしろみんなそうしてる。いったん練り出した歯磨きをチューブに戻すことはできない。ソースに行ってみろ、ネット・プロバイダだろ。このむちゃくちゃな状況を正す時が来た。これこそがその方法だ。簡単だとは言わない。簡単じゃないだろう。政府による前例のない介入が必要だからだ。新たな連邦法規の制定が必要になるだろう。AT&T、ベライゾン、コムキャスト、コックス、ディッシュ・ネットワーク、ベル・システムズなどの通信業者は、政治家に対するロビー活動部隊と莫大な資金を有する世界規模のメガ企業だ。奴らは誰かが強制的に命令しない限り、パイを分かち合おうとはしないだろう。だから強制しなければならない。この問題を解決するにはその方法しかない。デジタル著作権管理やレコード会社が不法コピーを取り締まったところで何の解決にもならない。そんなものは全く笑えないジョークさ。

アーティストとコンテンツ・プロバイダは生き残りをかけてこれまでにない方法で一致団結しなければならない。国会はアーティストの権利に対する支払いが、プロバイダが得る契約料から直接支出されることを義務づける必要があるだろう。アーティストに支払いが行なわれるためにはそれ以外方法はない。コンテンツ使用状況に従って分配を行なうシステムを考案することは可能だ(プロバイダが不法ダウンロードを取り締まる、という考え方は、キツネがニワトリ小屋を守るに等しい超現実的アイデアだ)。

隣国カナダは俺たちよりずっと先を行ってる。よく考慮された解決策を案出し、それはカナダでの裁判を経てもうすぐアメリカにとってのモデル・ケースになるだろう。彼らに称賛を。提案された打開策はここ及び彼らのウェブサイト「夢のような快挙だ!二度と起こらないだろう!」(訳注:現在は存在しない)でチェックできる。これは18世紀のフランスの戯曲家、カロン・ド・ボーマルシェ(「セビリアの理髪師」や「フィガロの結婚」の原作者)の仲間の作家たちがボーマルシェに送った讃辞で、その時彼は劇場のプロダクション会社と対決し、彼らから自分の戯曲の所有権を奪い取ったんだ。1793年、ボーマルシェは原作者の権利を法律中に巧みに織り込むことにより、創作者は自分の創作物に対して本来の所有権及び不可避的権利を有するという簡潔明瞭で根本的原理をフランスにおいて確立した。

この考え方こそが著作権のまさに核心だ。ボーマルシェの「夢のような快挙」が世界レベルで実現しつつあるんだ。

ウェイン・クレイマー
2009年3月31日 ロサンジェルスにて

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