クレイマー・レポート No.3 (2001年7月)

(今年6月、ウェインはスウェーデンのバンド「ノーマッズ」に加わって「ハルツフレッド・ロック・フェスティバル」に参加した。)

ノーマッズはすばらしいバンドだ。いい奴ら、しかも寛大なホスト。ジェロ・ビアフラ、ディクテイターズの"ハンサム" ディック・マニトバとロス・"ボス"、セインツのクリス・ベイリーもこのフェスティバルに参加した。トリを仰せつかったのは、光栄にも俺たちのバンド。キック・アウト・ザ・ジャムスで最高に盛り上がって終わった。1万人の若者を前にプレイする機会はそうあるもんじゃない。最大限のエネルギーを出し切った。会場が一つになってグルーヴしてるのを見るのは、おかしいくらいに楽しかった。

ハルツフレッド・フェスティバルは、ヨーロッパで最も長く続いている音楽イベントの一つで、もう17回目を数える。スウェーデンの南にあるハルツフレッドという小さな町で毎年春に1週間、スウェーデンとヨーロッパ各地から音楽ファンが集うんだ。向こうではロック・フェスティバルと言っても、ものすごくマナーがいい。大人たちも若い世代がこの種の事をしたがるってことに理解を持って接している。若者の側でもそれに応じてハメをはずし過ぎるということがない。この倫理!そこそこアルコールを飲み、多分そこそこドラッグをやって、それでいて節度がある。最悪のマナーを嫌というほど見ているアメリカ人にとって、こういう自粛された態度は全くの驚きに他ならない。いったいどうやったらああなるんだろう?この自由と勇気の国アメリカで、どうして同じ事ができないんだろう?

凄い人気のヘラコプターズの他に、クイーンズ・オブ・ザ・ストーンエッジ、イギー、マニック・ストリート・プリーチャーズ、ロケット・フローム・ザ・クリプト、ナッシュビル・プッシー、エイミー・マン、ジェイ・メイシス・エンド・ザ・フォッグ(俺のバンドのマイク・ワットが参加)、アウトキャストを含め多くのバンドが集結した。

ヒップ・ポップ・テントでセイジ・フランシスという非常にクールなラッパーに遭遇した。リズム狂、ラップ・マニアックな髭ヅラの白人。自由気ままなスタイルで、オーディエンスをからかうんじゃなく、オーディエンスと一体になってからかうんだ。それでいて、本当のエンターテインメントとは何かを体現してる。頭の切れる奴、ファンも彼のウィットをよく理解してた。聴く者の、俺の、知性を馬鹿にするということがない。奴のラップは聡明で、オリジナリティーに溢れている。価値のある音楽。彼の事をもっと調べてみよう。

フェスティバルを終え、俺の弟分であるヘラコプターズとストックホルムに戻って一緒に2曲録音した。1曲は共作で新曲、もう1曲はMC5のカバーで「ガッタ・キープ・ムーヴィング」だ。MC5のドキュメンタリー・フィルム、「トルゥー・テスティモニアル」が来年公開されるのを受けてリリースされる、MC5トリビュート・アルバムに収録される予定だ。ヘラコプターズは「ガッタ・キープ・ムーヴィング」のウルトラ・ハイ・エナジー・バージョンをやってのけた。奴らと仕事をするのは本当に楽しい。あの年齢の頃の自分の姿を何となく思い出す。

この旅行で少し体調を崩した。時差ボケ、不眠、飛行機という名の空飛ぶ筒型シャーレー。回復するのに1週間かかったが今はもう大丈夫だ。

最近、生活で最も多くの部分を占めているのが曲を書くことだ。俺が愛してやまない行為。文章を書くということも面白くてしょうがなくなってきた。書けば書くほどそのプロセスが楽しい。散文と歌詞が最近溢れるように浮かんでくる。何か書いている時が一番幸福だ。書くのをやめると、行動がどことなくおかしくなってくる。

バンクーバーのバンド、DDTのブライアン・ハウズがロサンジェルスにやって来たので、2、3日2人で曲を書く作業をしてみた。1曲いいのが書けた。このところベルレイズのトニー・フェイトと、プロ・ツールってデジタル・サウンド器機を夜中まで2人でいじくってる。なかなか面白いものができた。どれもちょっと奇妙な曲なんだが、それはそれでいいことだと思う。この作業が最終的に何を生み出すのか、わからないし、わかる必要もない。結果からは1歩離れた所にいよう。最近テクノ/エレクトリック方面に凝っているんだ。ノイズ製造マシンをいろいろ手に入れたら、何かしらヘンなものを創り出さずにはいられないじゃないか、ハハハ。

おかしなもので、最近、悪者ナップスターのニュースを聞かない。あの大騒ぎは一体何だったんだ?買ったばかりの超高級車ベントレーか、とにかく自分らがカネをかけたシロモノの代金を払えなくなるかもしれないってんで、貪欲な奴らがナップスターを死刑にしろとワメいたんだ。俺が見た限りでは、メジャー・レーベル(と、RIAAっていう雇われポン引き)が、ドット・コム・ビジネスを営む者から、裁判所を使って巨額の賞金をまんまとキャッシュでせしめ、しかも(1対10で賭けてもいいが)そのうちの1セントだって、ソングライターやバンドに入っちゃいないぜ。

自分の歌をパクられるのは誰だって嫌さ。だが、結局カネはどうなった?ビッグな多国籍企業がせしめたのさ。相も変わらずだ。ナップスターや、ファイルをシェアしたリスナーは敵じゃない。断じて敵じゃなかった。

気に入った音楽をダウンロードしてた奴らは、リッチになろうとしてやってたんじゃない。その音楽が好きだからやったんだ。レコード業界のエリート共をオドしてみるか?奴らのシマを荒らすのさ。奴らが心配してるモノを奪うんだ、マーケット・シェアってヤツを。奴らのカネの流れを脅かせ、そしたら奴らは屋根のてっぺんから叫び始めるぜ、「アーティストの権利が!聖なる著作権を守るのだ!」ってな。だが、奴らが心配してるのは実は利益が下がる可能性なんだ。敢えて「可能性」と言おう。だって、奴らの利益が実際に下がった事を証明した者はいないんだ...レーベルも、アーティストも、音楽出版社も、誰一人、1セントだって損しちゃいない。そしてビッグなビジネスを運営する例の老獪な、狡猾な手段で、奴らは理論ででっち上げた危機をまんまとより大きな利益に変えたのさ。この件全てに、俺は行き場のない憤りを感じる。

そう、ビッグ・ビジネスとか愚かなコマーシャリズムの話が出たついでに、マッスル・トーン・レコーズからの第1弾(「ビヨンド・サイバーパンク」を含めれば2枚目だが)が、もうすぐリリースされる。CD名は Mad For The Racket、ブライアン・ジェイムスと奴の仲間と一緒にレコーディングしたアルバムで、この秋リリースが予定されている。俺のこのホームページにも、しばらくしたらこれ専用のページをアップして情報を提供するつもりだからチェックしてくれ。

とにかく何といっても、このところ生活は快調だ。ありがたいことだと思っている。みんなも元気でな。アクセスありがとう。


ウェイン・クレイマー
カリフォルニア州ロサンジェルス
2001年7月
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