2004年はアメリカ大統領選の年である。かねてよりブッシュ打倒を叫び続けてきたウェイン・クレイマーだが、ここに至りロック・ミュージシャンを組織して「行動」を開始した。リストアップされたパンク・ロックのビッグ・ネームたちを見よ。政治的目的を掲げてこういう形でロック・ミュージシャンが連帯するのはアメリカでもこれが初めてのようだが、やはり「MC5のクレイマー」のイニシアティブがなければ実現しなかったことだろう。MC5時代、政治に翻弄された苦い過去を持つウェイン。控えめな文章でありながら、決起を呼びかける今回レポートが発するメッセージの力は、やっぱり凄い。


クレイマー・レポート No. 21(2004年1月13日)

パンク・ボーター (“Punkvoter”)」(訳注:”Voter” は「投票者」の意)のイベントに参加するため、先週末アイオワ州デモインに行って来た。全く斬新な体験だった。

現地でクール・アロゥ・レコーズのビリー・ゴールド、アンチ・フラッグのクリス・#2、ライズ・アゲインストのティム・マックラスに合流し一緒に行動した。アメリカの若者に決起を促すメッセージを伝えるのが目的だ。自分達を代表する政治家はいない、と感じている若者がこの国には数百万人存在する。だから俺達は、自分らの知名度を利用し、俺達が抱いている危惧を全国レベルの政治運動に発展させたいと考えているんだ。そして今、これまで政治に対しシニカルな態度を取っていたバンドも含め、使命感を持つミュージシャンと連帯してパンク・ロック・ファンに働きかけ、変化を起こそうというチャレンジに乗り出した。これまでのところ運動は順調に進んでいる。

NOFX,グリーン・デイ、バッド・リリジョン、バウンシング・ソウルズ、グッド・シャーロット、オフスプリング、ブリンク-182、フー・ファイターズ、ミニストリー、マイティー・マイティー・ボストーンズ、シック・オブ・イット・オール、ドロップキック・マーフィーズ、ペニーワイズ、マッドハニー、アルカリン・トリオ、12社以上のレコード・レーベルと数百の音楽関係グループ、加えてファット・マイク、ジェロ・ビアフラ、ブレット・ガーウィッツのサポートを得ている俺達は、変革を求める強力な「声」になりつつある。

イベントは土曜の夜に始まった。俺はギターを持ってブルース・オン・グランドのステージに上り、この連帯の企画関係者で満員の会場でライブを行った。楽しかった。単独のアコースティックをやることはめったにない俺だが、今回は吟遊詩人スタイルでプレイした。ブロークン・プロミス、ナイフ・トゥ・ザ・ガンファイト、アメリカン・ルース、ネガティブ・ガールズ、バック・ホウェン・ドッグズ・クッド・トーク、ツァー・オブ・ポイゾンヴィル、スター・スパングルド・バナーを歌った。バンドをバックに普段プレイしているのとほとんど変わらないセットだ。

翌日プレス・コンファレンスを開催した。もし俺が二十歳の時に誰かが「汝はいつの日か労組のリーダーや国会議員の傍らに立ち、ロック・ファンに選挙への投票を呼びかけることになるであろう」なんて予言してたら、アンタ、もうちょっと強いヤツ吸ってアタマ冷やした方がいいんじゃないの?くらい言ってただろう。だが実際、それがこの日俺がやったことだった。しかもすごいクールなイベントだったんだ。全米自動車労組のデイブ・ニールとセス・ジョンソン、全米地方行政区公務員連合のマーシャ・ニコルズ、アイオワ州知事トム・ヴィルサックと彼の息子ダグが、10台以上のテレビ・カメラが回る中、ロックFM局「レイザー」や各新聞のレポーター連中をごっそり引き連れて俺達の会見に加わり、この運動に一層の活気を与えた。クリス、ティム、ビリーは Punkvoter運動の趣旨を雄弁に語り、俺達がどうしてこれを始めることになったか説明した。

いいか、現実はこうだ。投票権を持つ18歳から25歳の若者は全米投票者の4分の1を占める。なのに彼らの13パーセントしか投票所に行かない!つまり、この層が真剣に政治を考え投票すれば世の中を変えられるんだ!問題はこの事実を彼らに説いて聞かせる者がいないってことだ。だから彼らは、政治なんて自分達には全く無関係だと思っている。俺達はそれで立ち上がったんだ。アイオワでの成功で俺達はいいスタートを切ることができた。浮動票を形成する若者たちが、最終的には支持できるものを見つけてくれるよう願う。

日曜日の夜、俺達全員、大統領選を語る討論会に参加した。大したイベントだった。こういうものに直接加わるのは初めての経験だったが、すごく面白かったと言わざるを得ない。アル・シャープトンが人種問題でハワード・ディーンを攻撃したのを除き、討論自体はすこぶるおとなしかった。アメリカには今もって人種問題が存在するというシャープトンの主張は支持するが、彼のあの攻撃を本気と受け取る人間は少ないだろう。(秘密を打ち明ければ、コマーシャルのブレイクが入ると2人はさっと壇上を降りて、昔からのいい友達みたいに話してたぜ。マイクを手でふさぐことは忘れずに。)

本当の意味で活気づいたのは討論会終了後、いわゆる「談話室」って場所でだった。メディア関係者の控え室であるバック・ステージだ。候補者全員が関係者を伴ってここに戻り、今討論したことをさらに説明し、補足する。ここでプレスは質問を許され、俺も大胆に参加した。

同じ日、俺はこれに先立ってディーンの選挙参謀であるジョー・トリッピとたまたまホテルで会い、同じ週に彼がパウラ・ザーンとテレビで繰り広げた議論に関して話をする機会があった。パウラは「公正で私見のない」態度を装ってジョーに挑んでいたが、ジョーの方は全く動じていなかった。俺は、メディア関係者の攻撃を立派に受けて立つ人間を見るのが好きなんだ。談話室でもジョーは鉄壁で、討論会が終わりピラニアみたいに襲い掛かるレポーター軍団を冷静に処理していく彼の姿に、俺は完全に魅了された。

若者を政治に引き入れることに関し、候補者の1人であるデニス・クシニッチとも話をした。俺に、というよりも俺の方向に話し掛けている感じで、月と火星に人間を送り込むというブッシュの計画について意見を求められた際、一番笑いを取ったのが彼だった。「大量破壊兵器はそっち方面にあるのかね?!」

政治のプロ達と彼らの土俵で交戦し、活発に意見交換するのはいい経験になったと思う。真実を言えば、俺やみんなより奴らの方がアタマがいいなんてことは全然ないんだ。俺達はみんな意見を述べる権利を持つと同時に、自分の考えを表明する責任がある。民主主義では権力者に質問を投げかけることが不可欠だから。それこそが、権利章典を編纂した人間が構想していたことなんだ。アッシュクロフトやブッシュが自分達に反対する者を「反逆者」と呼ぶのは、陰湿な策謀であるばかりでなく、腐敗なんだ。

ホテルに戻ると夕食会がたけなわだった。アイオワ在住の黒人・ヒスパニックのリーダー達が数多くスピーチするのに耳を傾けた。ジョン・ケリーが立ち上がり、自分がいかに彼らのことを考えているか会場にアピールしようとしたパフォーマンスはブザマだった。この時点で俺達はみんなバーベキューのチキンにかぶりつき、長かった1日の疲れを癒した。

ロブ・「バイコ」・ベイカーとソース誌の編集者数人と話をした。若者を連帯させ政治プロセスに参加させることに関し、ヒップ・ポップ界とオープンに語り合いたかった。俺達と彼らは似た者同士だし、だからこそみんなそこに集合して来ていた。失業していたら、あるいは学費が払えなかったり、医者にかかるカネがなかったり、そもそも全く必要のない戦争に徴兵されて闘わされるハメになったら、どんなスタイルの音楽が好きかなんて全然どうでもいい。変化を起こしてそういう問題をなくしていく必要があるし、それは「今」実行しなければならないことなんだ。

日曜日にはビリー・ゴールドと一緒にハワード・ディーンの選挙事務所本部に行き、フル稼働中の選挙本部の実際を目の当たりにした。電話を処理し郵便物を準備する大勢の選挙スタッフと共にそこにいたアイオワ州選出の上院議員、トム・ハーキンと話す機会があった。驚くほど率直に、ブッシュは国民に恐怖を植え付けてコントロールし、現状を変えるために俺達が何かするのを阻止しようとしていると語った。さらに、若者と対話する政治家がいないことを認め、それは今後変えていかなければならないと言う。俺は完璧な同意を表明した。

こういう動き全て、最終的にはどういう事態に発展するんだろう?誰にもわからない。パンク・ボーターの見解としてではなく、俺個人の意見を述べれば、一つクリアなことがある。つまり、今を逃したらチャンスは2度とないってことだ。俺が危惧するのは、安易に構えてこの国が進む方向を変えるために「今」何もしないでいると、事態はこの先信じ難いほど悪化するってことだ。

この秋、本当の意味での選挙なんか行われないのかもしれない。アッシュクロフト、ラムズフィールド、チェイニー、パール、ウォルフォウィッツ、そして奴らの首領ジョージ・W.ブッシュ自ら、今回の選挙を無効にしてしまうかもしれない。ブッシュが過去にやったことを見てみるがいい。奴は最後の選挙を(兄弟の力を借りて)かすめ取ったんだ。ダマされるな。こいつらは危険な集団だ。よく組織され、そして奴らは真剣だ。

ここに、莫大な富と権力を持つに至った男がいる。人生これまでずっと庇護され、甘やかされてきた男だ。情緒不安定で知られ、過ちを犯す度にうまく救われてきた。大統領になるべく訓練され、親父の足元で自分がこの先することを全て目撃してきた。やがて対抗勢力が哀れな親父を叩き出した。ジョージの息子は同じことが自分に起きるのを許さない。親父の目には何としてでもいい息子に映るよう、合衆国憲法や数え切れないくらい大勢のアメリカ人の若者の命を犠牲にした。アメリカ国民の健康と幸福を犠牲にし、イラクとアフガニスタンの人々の命を犠牲にし、世界中の国々で信奉されている民主主義というものの未来を犠牲にしたんだ。

無意識の性的欲望と言ってもいいくらいだ。そう、聖書にある通りだ。修復するのに数世代を要するダメージを、この世界に与えようとしている。そしてアメリカの若者はその中に巻き込まれようとしているんだ。

これを変える力を持つのは君達だ。行動しろ、断固として。投票するんだ。

ウェイン

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